速さを、強さへ。
KYOJO CUP Rd.3 ― 確かな成長と、その先に見えたもの。
開幕戦で4輪フォーミュラデビューを果たし、Rd.2では実戦の中で一歩ずつ経験を積み重ねてきたRAYSアンバサダー・松井沙麗選手。
迎えたKYOJO CUP Rd.3では、これまでの2戦とは明らかに違う景色が見え始めました。
練習走行ではトップタイムを記録し、これまで課題としてきたドライビングにも確かな手応えを得る。純粋な「速さ」という部分では、自身でも大きな成長を実感できるところまで来ていました。
しかし、レースは速さだけでは決まりません。
変化する路面コンディションへの対応、プレッシャーの中での判断、ライバルとの駆け引き。そして、どんな状況でも自分の走りを崩さない強さ。
速くなったからこそ見えてきた、新たな課題。
KYOJO CUP Rd.3は、これまで積み重ねてきたものが形になったと同時に、さらに上へ進むために必要なものを知る週末となりました。
本記事では、松井沙麗選手本人から届けられたレースレポートをもとに、KYOJO CUP Rd.3の戦いを振り返ります。
積み重ねてきた経験が、確かな速さへ。
レースウィークは木曜日、金曜日の練習走行から始まりました。
ここで松井選手は、これまでのKYOJO CUPでは見せたことのない速さを発揮します。
全6セッションのうち、5セッションでトップ3。そのうち3セッションではトップタイムを記録。
以前から課題として取り組んできたのが、コーナリング時に「クリップの前でハンドルの大舵を終える」というドライビングでした。
Rd.3では、木曜日朝の1セッション目からその走りを実践。
その変化につながったのは、KYOJO CUPだけで積んできた経験ではありません。イギリスでのF4走行や、日本国内でKYOJOとは異なるマシンを使ったトレーニング。グリップレベルの異なるマシンを経験することで、マシンをどう動かし、どのタイミングで操作を終わらせるのか。その感覚が少しずつ研ぎ澄まされていました。
「グリップが高くない車での練習が、とても生きていると感じました。」
もちろん、まだすべての周回で完璧にできるわけではありません。走れば走るほど、新しい課題も見えてくる。
それでも、これまで取り組んできたことがラップタイムという目に見える形になったことは、大きな自信につながりました。
“トップを争える速さがある”。
そんな確かな手応えとともに、Rd.3は始まりました。

「速い」という手応えと、予選で見えた経験の差。
2日間の練習を終え、迎えた土曜日。
予選、そしてスプリントレースが行われるレースデイということもあり、サーキットには多くの観客が訪れ、松井選手のピットにもたくさんのファンが集まりました。
そして迎えた20分間の予選。
「今までこのような速さを練習から出せたことはなかったので、プレッシャーと緊張でいっぱいでした。」
追いかけるだけではなく、今度は練習で見せた速さを結果につなげなければならない。
さらに前日に降った雨が残り、路面は松井選手が苦手意識を持つハーフウェット。経験の少ないコンディションでの勝負となりました。
時間が経つほど路面は乾いていく。
つまり、前の周より次の周、さらにその次の周と、路面の変化を読みながら毎周攻め続けなければなりません。
松井選手も周回を重ねるごとにタイムを上げていきましたが、ピット位置が後方だったことから、トップ勢と比較してアタックできた周回は1周少ない状態でセッション終了。
結果は6番手。
決して悪い順位ではありません。
しかし、木曜日、金曜日に見せていた速さを考えれば、目指していた場所ではありませんでした。
「正直、経験の差が大きく出てしまった予選になりました。」
速さがなかったわけではない。
だからこそ悔しい。
それでもレースは続きます。気持ちを切り替え、10周のスプリントレースへ向かいました。
スプリントで知った、「速さを出し続ける」難しさ。
6番グリッドから迎えた10周のスプリントレース。
松井選手が並ぶ偶数側にはまだ濡れている箇所があり、スタンディングスタートには難しい状況が予想されました。
フォーメーションラップでタイヤを温め、再びグリッドへ。
5つのレッドライトが点灯した、その瞬間。
目の前のマシンがフライングし、その直後にエンジンストール。
ライトが消えると、松井選手は停止したマシンを避けるため左へステアリングを切ります。その回避によって加速が鈍り、1コーナーで後続車に先行を許しました。
それでもヘアピンで再び距離を詰め、ダンロップコーナーで前方が詰まった瞬間、空いたスペースへ。すぐさま抜き返すことに成功します。
しかし、次の1コーナーで再びオーバーテイクを許したことをきっかけに、松井選手の中に焦りが生まれました。
後方から迫るマシン。何度も仕掛けられる1コーナー。
ポジションを守ろうとするほど意識は前ではなく、次第にミラーへ向いていきます。
「後ろばかり気にしてしまい、私はこのとき完全に練習の時の自分の走りを見失っていました。」
さらにファステストタイムを連発するマシンが後方から迫っていることを知り、その焦りは大きくなります。
9周目の最終コーナーでは、横に並ばれることを意識するあまりアウト側を大きく回り、最終ラップのストレートでは後続車が真後ろへ。
スリップストリームを使われ、1コーナーでオーバーテイクを許し、そのまま7位でチェッカーとなりました。
「10周のうち、練習の自分の走りができた周はありませんでした。」
焦っていることも、走りが乱れていることも、自分では分かっていた。それでもレース中に修正することができなかった。
レース後に走行データを確認すると、各セクターの自己ベストをつなぎ合わせた理論タイムは、ファステストタイムとほとんど変わりませんでした。
つまり、速さそのものが足りなかったわけではない。
練習で速く走ることと、ライバルと戦いながらその速さを発揮すること。
速さを手に入れたからこそ、次に必要なのは、その速さをどんな状況でも引き出せる“強さ”。
スプリントレースは、その新たな課題を突きつける10周となりました。

雨の決勝。昨日の自分を越えるために。
日曜日。
富士スピードウェイは朝から雨に包まれました。
それでもトークショーには多くのファンが集まり、松井選手を待っていました。
決勝は雨の影響によりセーフティカースタート。3周のセーフティカーランを終え、4周目からレースが始まります。
再開直後のダンロップコーナー。
松井選手はすぐさま1台をオーバーテイクし、6番手へポジションアップ。
しかし、その後は思うようにペースが上がりません。
ミラーに映る後続車が、周回を重ねるたびに大きくなっていく。
前日のスプリントと同じような状況でした。
焦りが生まれそうになる。
ただし、昨日とは違いました。
「昨日の反省を生かして、落ち着いて自分の走りをするように意識しました。」
後ろばかりを見るのではなく、自分がやるべきことへ集中する。
そして残り6周。
前方を走っていたマシンが最終コーナーで大きくラインを外し、一気に距離が縮まります。
ストレートで背後につき、そのまま1コーナーでブレーキング勝負。しかし、ここでは抜き切れません。
続くコカ・コーラコーナーではサイド・バイ・サイド。
松井選手はアウト側、相手はイン側。
雨のコンディションから、イン側のマシンがコーナー出口でアウトへ膨らむと予測した松井選手は、無理に並び続けるのではなく一度引きます。
狙ったのは、クロスライン。
その読みどおり前車はコーナー出口でコースオフ。松井選手はラインを切り返し、オーバーテイクを成功させました。
前日のスプリントでは、相手を意識しすぎて自分の走りを失った。
その翌日には、相手の動きと路面状況を冷静に読み、自らチャンスをつくって仕掛けた。
オーバーテイク後は後続との差も広がり、残り5周は自分の走りだけに集中。
そしてチェッカー。
5位。
KYOJO CUP参戦以来、自己最高位でレースを終えました。

速さを、強さへ。次に目指すのは表彰台。
自己最高位となる5位。
開幕戦、Rd.2、そしてRd.3と、リザルトは一戦ごとに少しずつ上がっています。
それでも、松井選手がこの週末に掲げていた目標は表彰台。
木曜日、金曜日の練習でトップタイムを記録し、トップを争うだけの速さがあることを実感したからこそ、5位という結果だけで満足することはありませんでした。
「このリザルトは喜べませんが、速さ、レース中のバトルは前に比べて大きく成長したと自分でも感じられるレースでした。」
Rd.1では、初めてのフォーミュラレースを経験した。
Rd.2では、実戦の中でオーバーテイクやレースマネジメントを学んだ。
そしてRd.3では、トップを争える速さを見せる一方、その速さをプレッシャーのかかるレースの中でどう発揮するのかという、さらに一歩先の課題と向き合いました。
スプリントで自分の走りを見失った経験を、翌日の決勝では冷静な判断へと変える。
失敗し、考え、次の走行で変える。
その積み重ねが、確かな成長につながっています。
次に目指す場所は、表彰台。
そしてRd.3を終えた松井選手は現在、スペインでF1 Academyのルーキーテストという新たな挑戦にも臨んでいます。
「この素晴らしい機会に、たくさんのことを学び、これからのレースで生かしていきたいと思います。」
イギリスでのF4、KYOJO CUP、日々のトレーニング、そしてF1 Academy。
異なる環境、異なるマシンで得る一つひとつの経験が、次の速さへ、そして強さへとつながっていきます。
速さは、すでに見え始めた。
次は、その速さをどんな状況でも発揮できる強さへ。
RAYSはこれからもアンバサダー・松井沙麗選手の挑戦を支え、その成長とともに走り続けます。